『欧州鉄道の旅~さらに進展する高速鉄道』

  

小 山 和 薈


パリ北駅、パリ東駅などのターミナルホームに並んだTGV,ICE、ユーロスター、タリスの車両群は各国高速鉄道列車の相互乗り入れがつぶさに眺められて鉄道ファンの被写体として壮観である。


1. より速くなったユーロスター

 パリやブリュッセルからの時速300キロの列車は英仏海峡トンネルをくぐり、英国国内に入ると在来線での運転のため時速160キロ

パリ・リョン駅構内に並ぶ高速特急TGVと乗客達

に制限されていた。07年11月に待望の高速新線が開通し、ロンドンのターミナル駅も同時にこれまでのウォータールー国際駅からセントパンクラス駅に移転した。セントパンクラス駅は100年以上の歴史を持ち由緒ある駅とのことで、テムーズ川の左岸、ロンドン中心に位置し、東海岸線の発車駅キングスクロスの隣で、西海岸線の発着駅ユーストンにも近い。テームズ川右岸のエブスフリート駅経由でテームズ川をトンネルでくぐり、ロンドン・トンネルを経て終着ロンドン・セントパンクラス駅に到着する。09年には途中にストラットフォード駅も開業、全線が高速新線として開業した。
 ロンドンーパリ間はこれにより20分速くなり2時間15分、ロンドンーブリュッセル間も1時間54分に短縮された。航空機を利用した場合のロンドンーパリ間は約1時間15分、空港までのアクセスや厳格なセキュリティチェック、遅延などを考えると両都市の中心部間の移動時間はほとんど変わらない。ユーロスターのシェアは7割に達したという。
 08年9月ユーロシャトル貨物列車が海峡トンネル内で出火し、北側トンネルの一部が補修のため単線トンネル2本のうち1本が閉鎖されているが、ユーロスターの輸送量は08年1~9月までの旅客が700万人(13.9%増)、売り上げ710億円(17.2%増)となっている。


2. イタリア鉄道も高速新線開通

 イタリア高速鉄道網建設で大きな位置を占めるミラノーボローニア間の高速新線が08年12月から営業運転を開始し、1時間42分が1時間に短縮された。高速列車は「エウロスターイタリア」として250キロで運転されている。
 イタリアではスイス・チューリッヒとミラノを結ぶアルプス貫く世界最長57キロの”ゴッタルド基底トンネル”の建設が進んでおり、2017年の完成を予定している。在来のゴッタルド線は海抜1150㍍のループ線を上り下りしくねくねと進むため高速化が難しかったという。この新線の開通で、ミラノーチューリッヒ間の運行は現在インターシティ特急で4時間10分、新型特急チザルピ-ノで3時間40分かかるが高速新線の開通で2時間40分にまで短縮される。(「東洋経済08年4/19号) 巨大トンネルを建設しても自然の景観は損なわれないというこの事業はスイス国内の鉄道近代化約3兆円の中で推進されているが、スイス鉄道事業の利便性を向上させる遠大な計画である。


3. TGV列車運行の強化充実

 フランスTGVはパリからドイツ(シュツットガルト、ミュンヘン)、スイス(バーゼル、チューリッヒ)に乗り入れているが、フランス国鉄

シャルル・ド・ゴオール空港地価のTGV空港駅

(SNCF)はエールフランスとKLMに共同運航を提案、エールフランスもパリーブリュッセル便を廃止し、ブリュッセルにもシャルル・ド・ゴール空港駅からTGVを乗り入れている。フランス、ドイツ、ベネルックス3国の5カ国共同運行の高速列車『タリス』があるが、現在は『タリス』に代わってTGVがコードシェア運行を行っている。南仏に行きシャルル・ド・ゴール空港駅に戻ってきたときに乗車したTGVの列車は、マルセーユ発ド・ゴール空港駅経由ブリュッセル行の2階建てデュプレックス列車だった。日本の駅弁は日本の文化だという人もいるが、TGVも9.5ユーロで車内弁当を”プティ・デジュネ”と称して販売している。デラックス弁当だと19ユーロ90で販売し、TGVの車内サービスも強化している。  TGV(ドイツのICEも同じだが)で便利な案内は、プラットホームでの列車番号表示板で、TGV(ICEも)の2編成1列車が多いので乗車に当たって極めて便利だ。TGVでは、列車番号が数字通り順序良く編成されてないことが多いので確認するのが便利だ。日本のJR東日本の新幹線は2編成1列車が多いので、JR東日本の構内も列車番号表示案内板が掲示されるようになった。
 TGVの車内サービスは高速化によりドイツICEのような食堂車を連結せず、各列車編成ごとにビュッフェを1両真ん中に連結している。東ヨーロッパ線の1編成はパリ東駅を出る場合、先頭が電気機関車、続いて2等車が4両、ビュッフェ1両、1等車両、最後尾が電気機関車、合計10両編成で、多客時間帯にはもう1編成ドッキングし、20両編成となる。ただし通り抜けができない。そこでプラットフォームでの列車番号表示案内板が頼りになる。TGVの各座席表示番号は電光掲示式で、上りと下りとでは番号が異なり乗車の際は注意が肝要だ。

フランスTGVの社内弁当の案内

 TGVのワゴン車による車内販売だが、地中海線は大半が2階建てデュプレックス車の編成でビュッフェまで買いに行かねばならない。東ヨーロッパ線の新線開通でデビューしたTGV新車両のビュッフェは、『ツーテビアン』(すべて素晴らしい)という名称がつけられている。シャンパンやワインを飲みに行くのに”素晴らしい”車両だ。日本の新幹線がJR東日本により青森に来年12月延長される予定と聞くが、これを機会にJRもビュッフェ復活を検討しているようだ。欧州の主要高速列車が車内サービスをいっそう強化しているときに、来日外国人観光客にもJRはもういちどビュッフェを用意した方が良い。


4. イベリア半島もも負けずに高速列車網を整備

 スペインも1992年にマドリッドーセビリア間で代表的なAVEが営業運転を開始した筆頭に高速列車が運行しているが、ヨーロッパ諸国のような標準軌とは違った広軌のため、軌道変換可能なタルゴとアリタリアが運行している。しかし高速新線にはフランスをはじめとするヨーロッパの高速鉄道網と直通運転することを目的として標準軌が採用された。マドリッドとバルセロナを結ぶ高速新線が2月20日に全線開通し、航空機の乗客が大幅に減少したという。現在300キロで運転しているが、将来350キロ運転を計画している。一方、ポルトガルはリスボンーポルト間に高速新線を建設することになり2013年には部分開通し、全線開通後はリスボンーマドリッド間を2時間45分で結ぶ計画だ。ヨーロッパ連合(EU)も汎ヨーロッパ交通網の優先プロジェクトとしてEUの資金が投入されるとのことだ。


5. オーストリア、オランダなども

 オーストリアでも高速列車「レイルジェット」が08年12月にミュンヘン~ザルツブルグ~ウィーン~ブタペストで運行開始した。最高時速は230キロで、”プレミアム・クラス”には食事も提供されるという。これによりザルツブルグ~ウィーン間は20分ほど短縮され、今後ウィーンからチューリッヒ間にも「レイルジェット」が運転される。  オランダでも北部に完成したスキポール空港の近くのホーフトドルブ~ロッテルダム間の高速新線により、アムステルダム~ロッテルダム間に1時間に1本、高速運転する。


アヴィニョン中央駅 フランクフルト中央駅のプラットフォームで売っている寿司